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さよなら、過去の僕 2010.04.30 23:04


「ようこそ、桐城昴さん!我がヴェンタッリオファミリーへ!」

あの声は月日が流れた今でも忘れない。
明るく、嬉しそうな声。
僕は「ああ、この子はマリア様みたいだ」と思った。




僕の家庭状況は最悪だった。
父の日常的暴力と、それを受ける母の泣き声と叫び声。
僕は1人っ子で、ただただ、それに怯えて、泣いて、クローゼットの中へ隠れていた。
そして、父の母に対する暴力が終わってクローゼットから出た僕がまず最初にするのは母に対する哀れみだった。

でも、その度に

「あんたなんて、」

という暴言を吐かれていた。
子供だった僕は傷付いてたけれど、いつか暴力が起こる以前の優しい両親に戻ることを夢見て、
必死に、我慢して我慢して我慢して…。


とある、僕が17歳になった頃。
学校から帰って玄関を開けると、母が沢山の紙やら封筒やらを床に散らばせて床に座り込んでいた。

「…母さん、?」

ひらり、と僕の方へ落ちていた紙を拾って読んでみる。
――――そこには、

「嘘、でしょ?」

父からの離婚届、財金全てを持って家を出て行った手紙。
母はただ、ボウッとしていただけだった。

「ねぇ、母さん」

返事は無かった。あるのは、放心状態の母の姿のみだった――――。


それから、数日後。
僕は孤児院に引き渡された。
そこはとても優しい人々だったけれど、僕はたった1ヶ月でその孤児院を出た。


だけれども、住んでいた家は差し押さえられてもう住めない。
食糧はない。お金もない。

(どうしよう、)

ろくに食事を摂ってなく、最早衰弱状態の僕。
そんな僕を見つけたのは――――

「……だ、大丈夫ですか!?」

「…え…?…」

必死の顔を少女だった。
そして、僕は目を閉じたのだ。
 

「ん………」

目を開いてまず見たのは白い天井、ふかふかのベッド。
そして隣でうつらうつらと眠気と闘ってる助けてくれたと思われる少女。

「あ、の…」

「…は、い……?…ああ!起きられましたか!?どうですか、御気分は!?」

起きたと思ったらすぐに状態を聞いてきた少女に僕は内心びっくりする。
そんな少女は「あ、」と声を出すと自己紹介を始めた。

「私は蓮漣麗と申します。えっと、ヴェンタッリオファミリーというマフィアのボスをしてます」

「マフィア、?……あの、ほ、ほんも、の?君が、ボス?」

「ええ。やはり驚かれた。皆さん驚くんですよね」

クスクスと笑う少女…否、麗ちゃんが大人っぽく感じられた。
僕より歳は明らかに下の様なのに。

「現在、幹部は4人。私を合わせたら5人です。」

…麗ちゃんは不思議な感じを持っていると思った。
なんだか、こう、上手く言えないけれど。
包み込むような――――

「…それで、お願いがあって」

「え、?」

「私のファミリーの“霧の守護者”になってほしいのです」

僕は一般家庭出身だから、マフィアのことなど全く知らなかった。
人を殺したりしたこともない。
だけれど、

麗ちゃんと、一緒に居たいと、ここが僕の居るべきところだと、直感で思った。

「本当、にいいの?」

「ええ、勿論!」

ニコリ、と微笑んで、冒頭の言葉を麗ちゃんは放ったのだ。

僕は、過去の記憶を捨てることにした。
昔の“桐城昴”は殺して今の“桐城昴”を生かせる。

僕は、新しく生まれ変わるんだと。

そう決心したのだった。


                  さよなら、過去の僕。




昴はこういう家庭がいいかなと思って書きました。
うーん…もうちょっとアクション在ればよかった。

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